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日曜の昼下がり。
ここねが階段を降りていくと、玄関で靴を履いているつきねの姿が途中で見えて、足を止めた。
デニムパンツと七分袖くらいのTシャツで、動きやすそうな格好をしている。
今日は雲も少なくて、雨の予報もない。
きっとつきねはこの間話していた神社に行くつもりなのだろう。
そんなことを考えていると、つきねはドアを開け、行ってしまった。
「何してんだろ……私」
ここねはため息をついた。
言い合いになってしまったあの日以来、つきねとすれ違っている。
まったく会話を交わしていないわけではないけれど、気まずさと遠慮が消えない。
つきねの行動は正しいと分かっているし、反対したいのでもない。
ただ、ここねは欲しかったのだ。
難題に頭を悩まさずにつきねと過ごす時間が、もう少しだけ。
ただ、つきねに休んでほしかった。
行動できない自分の分も毎日頑張っている妹を心配しただけ。
それだけのはずだったのに。
誤解を解かないといけないと分かっているが、踏み出せない。
これもみんな呪いのせいなのだろうか。
およそ一週間ぶりの快晴の下、つきねは自転車を走らせた。
夏の日差しの厳しさを肌で感じている一方で、ペダルをこいでいると風が気持ちいい。
目指しているのは、先日まねから教えてもらった鬼酒(きき)神社と呼ばれる神社だ。
家を出発してからもう二十分経ったが、神社までは中間地点を過ぎたあたりだ。
ここから先は少しずつ畑が多くなっていき、住宅の密集度もやや改善されていく。
普段はこちらの地区にやってくることはないので、自分が暮らす町とはいえやや心もとない。
父に車で送ってもらうことも考えたが、もし神社関係者と呪いの話題になったら妙な心配をされてしまいそうで、つきねは言わず仕舞いだった。
謎の病気だけでも両親の心労は相当のものだと、思うからだ。
説明してもすぐ信じてもらう自信もない。
そもそも呪いとは、何のかよく分かっていないままだ。
ここねが夢でその存在を目のあたりにして、つきねが調べてみて過去に『死』の呪いと呼ばれるがモノがあると突き止めた。
つきねがその身に抱えていた時はそれが呪いという認識はなかった。
発熱による苦しさや解消できない嘔吐感のようなものが心身を弱らせていく。
そして、止まない辛苦が少しずつ絶望の形になっているのだ。
この感覚を理解できるのは——
(つきねと、おねーちゃんだけだ。……なのに)
つきねは口ケンカをしてしまった。ケンカは今までにも何回もした。
けれど、今本当の意味でここねにより添えるのは実質つきねだけなのだ。
あの時同じ内容のことを言うにしても、もっと言葉を選ぶべきだった。そして一度声になってしまった言の葉は取り消すことができない。
ちゃんと謝らないとダメだと分かってはいるものの、謝罪だけで元通りになれるだろうか、と普段ならば考えない懸念が頭の中に居座る。
どれだけここねを傷つけてしまったか。言葉だけでは足りない。
「……そのためにもまずは行動しないとっ!」
つきねはペダルを強く踏み込んだ。
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