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第2話後編「決意宿る瞳」03

◇   ◇


つきねが家に戻ってきて数日、幸い症状は悪化していない。

食後の歯みがきを済ませてリビングに戻ると、テレビからはニュースが流れていた。 「見て見て、おねーちゃん。今週、流星群が来るみたい。へー、毎年四月のこの時期に見えるんだ」 部屋着姿のままのつきねが椅子に座っており、テレビ画面には去年撮影した流れ星の様子が映し出されている。 「お願い事し放題じゃんって思ったら、ポツリポツリと星が流れる感じなんだ。流星群って言うなんかこう!ブワァーって大量の流れ星が見えるのかと……」 ここねはちょっとしたガッカリ感をつきねと共有する。 「わかる! これでも映像を早送りしてるんだって」 「つきね、熱はどう?」 「今日は平気。本当は学校にも行きたいんだけど……」 微熱で治まっているが、つきねが登校するにはもう少し様子を見て判断するとのこと。 「まだ油断しないほうがいいからねー」 深刻にならないように努めて言ったけれど、ここねは夢で見たあの呪いであることを警戒していた。 もしまったくの見当違いなら、ここねの笑えない笑い話ができるだけだ。 「私はそろそろ行くけど、いい子で待ってるんだよー?」 「うん。いってらっしゃい」

つきねに送り出されて、ここねは学校に向かった。 音咲高校の廊下を歩いていると、掲示板の前でまねの姿を見つける。 「おっはろー。まね何してるの?」 「これね。軽音部の張り紙ー。部員募集と活動場所、あとはYouTubeのここねちゃんたちチャンネルのURLとQRコードを書いてる。アナログなやり方だけど、まずは知ってもらわないと、始まらないし」 「おお……何から何まで。ほんと頭があがらない。頼り切っちゃって」 「いえいえ。……そうだ、つきねちゃんはどんな感じ?」 「一応退院できて、今は自宅で静養中。だからもう少ししたら学校に来れると思う」 「よかったぁ! すぐには無理かもだけど、三人で部活できるね」 まねがすごく軽音部を大事にしてくれているのが伝わってくる。まねは歌は歌わないけど、かけがえのない仲間だ。もしいなかったら、軽音部はできなかっただろう。 「だね」

そう返事をしながらも、もしかしたらまねの厚意と献身に応えられないかもしれないと思うと、ここねは申し訳なさと心苦しさでいっぱいになる。

(つきねの呪いを引き受ければ、いつか私は……)

歌と妹の二つは、ここねにとって飛行機の両翼のように大切なものだ。


しかし、意志は揺るがない。


どちらかにしか自分のすべてを賭けられないと言うのなら……。

——ここねの決意を形にするのは今夜だ。

◇   ◇

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◇   ◇ 力が抜けたここねの身体をつきねは抱き留める。 「痛かったよね……」 そのままつきねは一度だけここねを強く抱きしめた。 しかし、のんびりしている時間はない。 つきねはここねの左胸を注視していると、黒い何かがそこにあるのだと直感した。 ここねの日記に書いてあったように、つきねは腕をここねの中で渦巻く黒い靄に向かって伸ばしていく。 「! ……来たっ」 鍵がどこからともなく掌中に現れたこと。

◇   ◇ ここねが次に目を覚ますと、そこは無音の世界だった。 美癸恋(みきこい)町の中心街——その抜け殻のような場所に飛ばされるのも、中学生の時から数えてこれで四度目だ。 道端には駐車されたままの自動車が数台。 新商品やセール中を知らせる幟も見える。 しかし、ここには街しかない。人がいない。 ふと紅い月の禍々しい光が照らし作り出した影が一つ揺れる。 アーティストのステージ衣装さながらのいで立ちを

◇   ◇ 春頃に比べて日が伸びたといっても、つきねが帰り着く頃にはすっかり暗くなっていた。 ドライヤーで乾かし終わると、つきねは髪をブラシで数回撫でる。 「ふぅ……これでいいかな?」 入浴後で、つきねは身も心もサッパリした気分だ。 やることも決まり、迷うのをやめた。 迷っていては大好きなものが消えてしまうかもしれないから。 数え切れないほどこの土地に生まれ暮らしてきた姉妹たちを、死に追いやった『

ココツキオリジナル小説

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