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第1話後編「はじめの一歩。そして一足先に」07

◇   ◇ 


音咲高校文化祭、当日。


十一月になり、空気が乾燥している日が多くなってきた。


校舎を出ると、時おり吹く風がだいぶ冷たい。


受験を控える妹だけではなく、ここね自身も喉のケアをしっかりしなければという意識が強くなる。


昼過ぎになり、続々と人が増えてきていた。


つきねを校門まで迎えにきたが、ここねの予想よりも来場者が多くてなかなか見つからない。


スマホを取り出そうとしたここねに後ろから声がかかる。


「おねーちゃん、お待たせ」


「全然待ってないよ。じゃ、まずは腹ごしらえ?」


「だね。ちょうどお昼時だし」


「料理研究部がカレーを出すのはリサーチ済み!」


「……つくねとか出す模擬店ないかな?」


「高校の模擬店に居酒屋はないので、ご容赦くださいませ~」


「つくねは居酒屋メニューじゃないもん! 大人から子供までおいしく食べられる料理だから!」


「あはは、ごめんごめん。行こっか」


きっと居酒屋のメニューにあるんじゃないかというツッコミは抑えつつ、ここねはつきねの手を引いて歩き出す。


掴んだその手は少しヒンヤリとしていた。


温めてあげたくて、ここねは妹の手を包むように握り直した。


料理研究部のカレーはここねを唸らさせるほどの出来だった。


ぜひともレシピを開示してほしいとここねは頼んだが、部員限定と却下されてしまった。


その後、ここねは来年のためにとつきねに学校施設を紹介しながら、文化祭の展示や出し物を見て回る。


「この後どうする? 何か見てみたいものある?」


「そうだなぁ。色々見たいところはあるけど、やっぱり一番は――」


◇   ◇


次7

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◇   ◇ ここねが次に目を覚ますと、そこは無音の世界だった。 美癸恋(みきこい)町の中心街——その抜け殻のような場所に飛ばされるのも、中学生の時から数えてこれで四度目だ。 道端には駐車されたままの自動車が数台。 新商品やセール中を知らせる幟も見える。 しかし、ここには街しかない。人がいない。 ふと紅い月の禍々しい光が照らし作り出した影が一つ揺れる。 アーティストのステージ衣装さながらのいで立ちを

◇   ◇ 春頃に比べて日が伸びたといっても、つきねが帰り着く頃にはすっかり暗くなっていた。 ドライヤーで乾かし終わると、つきねは髪をブラシで数回撫でる。 「ふぅ……これでいいかな?」 入浴後で、つきねは身も心もサッパリした気分だ。 やることも決まり、迷うのをやめた。 迷っていては大好きなものが消えてしまうかもしれないから。 数え切れないほどこの土地に生まれ暮らしてきた姉妹たちを、死に追いやった『

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