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第1話後編「はじめの一歩。そして一足先に」06

◇   ◇


久しぶりの姉妹カラオケ以降、ここねは時おりつきねを誘って息抜きに連れ出すことにしていた。 


もちろん、風邪などで体調を崩さないように万全の対策をしてだ。


毎回カラオケというわけではなく、ちょっとした買い物でつきねの好きそうな雑貨を見て回ったりすることもある。


今朝はつきねが日直当番らしく、家を出る時間がちょうど同じ頃になった。


ここねは甲斐甲斐しく、つきねにマフラーを巻く。


「おねーちゃん、この時期にマフラーはさすがに早いと思う……」


しゅるりとマフラーを外すと、つきねは簡単にたたんで鞄にしまう。


「いやいや、油断大敵! 風邪を引いたら喉にも良くないし!」


「そうだけど……それなら昨日のオラオケもあんまり良いとは言えないんじゃ……」


ここねは慌てて、弁解する。


「だ、大丈夫だよ! カラオケのマイクとかは店員さんがちゃんと消毒してくれてるから。頑張ってる店員さんを信じて……!!」


つきねと一緒に歌いたいという自分の願望が、妹に悪影響を与えたら……と考えると、ここねも気が気ではない。


必死なここねの姿に、つきねが噴き出す。


「ふふ。そこまで言うならおねーちゃんと店員さんを信じるよ。それにね、この前の小テストの結果すごく良くなったんだ」


「うんうん、その調子で頑張って」


「おねーちゃんこそ文化祭のほうはどう?」


「ばっちり順調に進んでるよー。昨日も準備したし」


「そうなの? それなら、つきねをカラオケに誘わなくてもよかったのに。そっちの方が大事でしょ」


少し申し訳なさそうに言うつきね。


「私、音楽もつきねもどっちも大事なんだ。だから、気にしない気にしない」


「うん。つきね、おねーちゃんが歌うの楽しみにしてるね」


◇   ◇


次6

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◇   ◇ 力が抜けたここねの身体をつきねは抱き留める。 「痛かったよね……」 そのままつきねは一度だけここねを強く抱きしめた。 しかし、のんびりしている時間はない。 つきねはここねの左胸を注視していると、黒い何かがそこにあるのだと直感した。 ここねの日記に書いてあったように、つきねは腕をここねの中で渦巻く黒い靄に向かって伸ばしていく。 「! ……来たっ」 鍵がどこからともなく掌中に現れたこと。

◇   ◇ ここねが次に目を覚ますと、そこは無音の世界だった。 美癸恋(みきこい)町の中心街——その抜け殻のような場所に飛ばされるのも、中学生の時から数えてこれで四度目だ。 道端には駐車されたままの自動車が数台。 新商品やセール中を知らせる幟も見える。 しかし、ここには街しかない。人がいない。 ふと紅い月の禍々しい光が照らし作り出した影が一つ揺れる。 アーティストのステージ衣装さながらのいで立ちを

◇   ◇ 春頃に比べて日が伸びたといっても、つきねが帰り着く頃にはすっかり暗くなっていた。 ドライヤーで乾かし終わると、つきねは髪をブラシで数回撫でる。 「ふぅ……これでいいかな?」 入浴後で、つきねは身も心もサッパリした気分だ。 やることも決まり、迷うのをやめた。 迷っていては大好きなものが消えてしまうかもしれないから。 数え切れないほどこの土地に生まれ暮らしてきた姉妹たちを、死に追いやった『

ココツキオリジナル小説

 『月ノ心ニ音、累ナル。』

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