第1話後編「はじめの一歩。そして一足先に」04

    ◇   ◇


    夕食後にお風呂を済ませ一息つくと、ここねはつきねの部屋を訪れていた。


    頑張っている妹にココアの差し入れを持って。


    「受験勉強、捗ってる?」


    「んー……まあまあかなぁ?」


    つきねは椅子の背もたれに体重を預けながら少しだけ伸びをした。


    マグカップを受け取った妹の顔からは少し自信なさげな印象を受けた。


    目的を持って頑張っていても、モチベーションを保ち突けることは難しい。


    勉強しても成績や順位がすぐに上がるわけではない。ここねにも経験があるから分かる。


    「あ、ココア美味しい」


    「分からないところあったら教えるよ? 合格実績アリのおねーちゃんを頼って頼って!」


    ここねは近づき、開いているノートと参考書を覗き込む。


    「そう? なら、ここの数学の証明問題なんだけど……」


    「Oh……mathematics」


    「え……なんで急に英語?」


    「勉強は……自分の力でやってこそ身につくと思う!」


    前言を翻し、ここねは正論を盾にする。つきねは当然の抗議だ。


    「おねーちゃんが言ったから聞いたのに……」


    「あはは、数学だけはちょっと……」


    ここねは人生の中で、数学のテストで四十点以上を取ったことがない。高校入試でも、数学は真っ先に捨てた。


    ここねは話題を変えることにする。


    「ひょっとして最近ちょっと集中できない感じ?」


    「そんな感じかも……よくわかるね?」


    「つきねのおねーちゃん歴も長いから、これくらいはお見通し! それで提案なんだけど、今度の休みに久しぶりにオラオケ行こう!」

    『オラオケ』とはカラオケのことだが、ここねたちはそう呼んでいる。美癸恋(みきこい)中学校近くのカラオケ店の看板が『オラオケ』になっているためだ。


    一見すると受験に集中しなければならない妹を誘惑する悪い姉だが、こういう時こそ気分転換が重要だとここねは考えている。


    つきねは今、趣味のゲームも封印している。うまくリフレッシュできていないのではないだろうか。


    「うーん……どうしよ。でもなぁ……」


    案の定、つきねは悩んでいる。


    ここは少し強引にでも息抜きさせてあげるのが、ここねの役目だ。


    「今までみたいに何時間もつき合わせないから。気分転換も大事だよ?」


    「……そうだね。おねーちゃんとのオラオケ好きだし」


    「じゃあ、決まり! 早く週末になればいいのに!」

    「なんだがおねーちゃんのほうが楽しみにしてる気がする」


    苦笑するつきねも、きっと週末には笑顔で楽しんでくれる


    ――ここねの勘はそう告げていた。


    ◇   ◇


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    ココツキオリジナル小説

     『月ノ心ニ音、累ナル。』

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