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鈴代ここねが音咲高校に入学して、半年が過ぎていた。
東京の――ここねが暮らす美癸恋(みきこい)町も少し前まで、夏の延長戦と言えるほ
どの暑さが居座っていた。けれど、十月も半ばとなれば秋の気配が強まってくる。陽が落ちると、だいぶ涼しく感じられる。
ここねはスマホで音楽を聴きながら、帰り道を急ぐ。
プレイリストも今はもう終盤。一周する頃には、自宅に着いているだろう。
最近ここねが聴いているお気に入りの曲は、今まさに歌いたい曲ばかりだ。そのせいか、ついつい口ずさんでしまうこともある。
もう別れてしまったが、途中まで一緒に帰っていたまねにさきほど少し注意されたばかりだ。
「気を付けてはいるけど、歌いたくなっちゃうんだよね。ん~んん~♪」
家につくと、ここねは自分の部屋より先にリビングに向かった。
「つきねー、ただいまー」
「おかえり、おねーちゃん」
リビングにはつきねが一人。中学の制服ではなく、部屋着代わりのマキシ丈のワンピースに着替えている。
パジャマではないので、まだ入浴は済ませていないようだ。
「最近帰ってくるの遅いけど、どうしたの?」
つきねが心配そうに尋ねてきた。
「あれ、つきねにはまだ言ってなかったっけ。来月の文化祭、軽音部としてステージで歌えることになったから、その準備してて」
「……そうだったの!?」
ここねの予想以上につきねは驚いていた。
「うん。でも、時間の都合で二曲くらいになりそう。選曲ほんと悩むー」
「わあ、本当に良かったね! 軽音部はおねーちゃんとまね先輩だけだし、体育館のステージ使えるかわからないって夏休み明けくらいに言ってから、無理なんだと思ってたよ」
自分のことのように喜ぶつきねに、ここねは胸を張ってみせる。
「ふっふっふ。それがおねーちゃんの人徳と人望がなせるワザだよ」
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