第1話前編「クローバーに約束を」08

◇   ◇


通う学校が変わるただそれだけで、ここねがつきねと離れ離れになるわけではない。


それなのに、涙がこみ上げてくる。


今度は堪えられず、ここねは涙を流した。想いがポロポロと零れ落ちる。


「卒業なんて、したくないよ……」


ここねの小さく震える体をつきねの細い腕が包んでくれる。


「つきね……一緒がいい……」


精いっぱい強く。けれど優しく。


「……おねーちゃんは、泣き虫だなぁ」


少しだけ涙ぐんだような、とても柔らかい声音がここねの耳に触れる。


つきねに抱きしめられて、ここねの震えは治まっていく。


「……つきね……」


「約束」とつきねは小さな声で言った。


「つきねはすぐに追いつくから、また同じ学校に行こうね」


「うん……待ってるから」


「うん」


涙が止まった頃、そっとつきねがここねの体から離れる。


ここねはつきねの少し困った顔を見て、気恥ずかしさでいっぱいになる。


(いつもと同じようにしなきゃ……って思ったのに。泣かないようにしようって思ってたのに……)


妹の前で涙を流して、妹に抱きしめられて、慰められてしまった。

きっと目も赤くなっているに違いない。ここねは顔の熱さも感じていた。


「えっと……つきね?」


「大丈夫だよ、おねーちゃん」


妹のフォローがここねの心にチクチクと突き刺さる。姉の威厳なんてあったものではない。


ここねは挽回の手段を考え始める。


すると同時に、


「あ、いたいた~。ここねちゃーん!」


まねの声が廊下に響いた。


「もうー、なんでスマホの電源切ってるの~。打ち上げの会場に行くよ~! ほらほら早く!」


ここねはつきねを振り返る。


「つきねのことなんて気にしないで、行ってきなよ。その前にこれ」


つきねがハンカチを差し出した。


「ありがとっ!」


目じりをハンカチでふき取ると、


「分かったー! 今行くー!」


ここねはまねのもとに駆け出した。


つきねは少しずつ小さくなっていくここねの背中に言葉を投げかける。


「中学校、おねーちゃんのおかげで楽しかったよ」


ここねの姿が見えなくなるまで、つきねはその場から動かなかった。


(つきねも、おねーちゃんと同じ気持ちだったよ)


いつか姉離れする日がつきねにも来るかもしれない。けれど、その日はもっともっと先のことだろう。


つきねは右手を優しく握る。


その中には青々とした小さな四葉のクローバーがあった。



◇   ◇


次09へ

目次


最新記事

すべて表示

第4話後編「決められた運命に逆らって」01

◇   ◇ 日曜の昼下がり。 ここねが階段を降りていくと、玄関で靴を履いているつきねの姿が途中で見えて、足を止めた。 デニムパンツと七分袖くらいのTシャツで、動きやすそうな格好をしている。 今日は雲も少なくて、雨の予報もない。 きっとつきねはこの間話していた神社に行くつもりなのだろう。 そんなことを考えていると、つきねはドアを開け、行ってしまった。 「何してんだろ……私」 ここねはため息をついた。

第4話前編「二人なら望む未来へ」05

◇   ◇ 昼休み中、つきねは校舎の廊下を歩いていた。 空は昼なのに薄暗く、窓は少し雨雫で濡れている。 飲み物を買いに自動販売機を目指しているところだが、片手でスマートフォンを確認する。 ここねからのメッセージはない。 (おねーちゃん……大丈夫かな。) 見るからにここねは衰弱している。 少しの間の会話でも苦しそうに顔を歪めていることがある。 顔色は悪く薄っすらだが目の下にクマもできていて、活発な姉

第4話前編「二人なら望む未来へ」04

◇   ◇ つきねの歌声がここねを包んだ。 柔らかく温かい——それでいて、力強い声音。 美しい旋律と調和した歌は、ここねを励ましてくれる。 心地よくて嬉しくて、ここねは小さくハミングを重ねる。 (本当はつきねと、歌いたい……) 以前歌おうと軽音部の三人でリストアップした曲だ。 もし呪いなんてものがなければ、二人で歌っていたはずで、ここねは少しだけ悔しい。 つきねがこの歌をしっかり練習したというのが

ココツキオリジナル小説

 『月ノ心ニ音、累ナル。』

  • ホワイトYouTubeのアイコン
  • ホワイトTwitterのアイコン

© CocoTsuki Project