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第1話前編「クローバーに約束を」04

◇   ◇


つきねの髪を整え終えた後、ここねはつきねと一緒に家を出て通学路を歩く。


校庭に植えられた桜の花びらが道端に数枚か落ちている。学校までもう少しだ。

ここねが今まで何百回と通ったこの道。これからもこの通りを使うことはあるだろう。だが、中学校まで行くことはほとんどないはずだ。


「つきねと中学行くのも最後なんだよねー」


「うん……これからつきね独りで学校行くんだなぁ……」


つきねがボソッと呟いた。


「あ、ごめんね。また変なこと言って……」


入学して以来ほぼ毎日一緒に通っていたから、つきねがそう思うのは仕方ない気がする。


音咲高校に行くのはすごく楽しみだけれど、妹と同じ気持ちになった。


「そんなに学校に行くのが不安なら、家を出る時にぎゅ~~っておねーちゃんパワーを充電してあげよう!」


「それ、おねーちゃんがつきねとハグしたいだけだよね?」


「私もつきね欠乏症を予防できて、まさにウィンウィンの関係!」


「ウィンウィン……かなぁ? あ。見て、校門のところ。看板立ってるね」


美癸恋(みきこい)中学校という銘板の隣には、『卒業式』と書かれた白い看板が立っている。紙で作られた紅白の花で飾られていた。そんな看板を目の当たりにすると、改めて卒業を意識させられてしまう。


「そう言えば私、おねーちゃんの入学式の時、校門まで一緒に来た気がする。どうしてだっけ?」


「お姉ちゃんについてくー! ってつきねがダダこねたからじゃない?」


「あ! 思い出した。おねーちゃんがすごく緊張してたからついていったんだよ」


「そうだったかな~? 覚えてないな~?」


そうとぼけながら、しかしここねも覚えていた。姉がガチガチに緊張していることを心配したつきねが、両親と一緒についてきてくれたのだ。


その時のつきねはランドセルを背負っていて、だいぶ背が小さかった。


しかし今、隣を歩くつきねは、ここねと同じくらいの背丈だ。まだかろうじてここねは、背の高さを追い越されていない。なんとか姉の威厳は保てているはずだと思う。


「それじゃあ、おねーちゃん卒業式頑張ってね」


「頑張るほどじゃないけどねー」


◇   ◇


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◇   ◇ 力が抜けたここねの身体をつきねは抱き留める。 「痛かったよね……」 そのままつきねは一度だけここねを強く抱きしめた。 しかし、のんびりしている時間はない。 つきねはここねの左胸を注視していると、黒い何かがそこにあるのだと直感した。 ここねの日記に書いてあったように、つきねは腕をここねの中で渦巻く黒い靄に向かって伸ばしていく。 「! ……来たっ」 鍵がどこからともなく掌中に現れたこと。

◇   ◇ ここねが次に目を覚ますと、そこは無音の世界だった。 美癸恋(みきこい)町の中心街——その抜け殻のような場所に飛ばされるのも、中学生の時から数えてこれで四度目だ。 道端には駐車されたままの自動車が数台。 新商品やセール中を知らせる幟も見える。 しかし、ここには街しかない。人がいない。 ふと紅い月の禍々しい光が照らし作り出した影が一つ揺れる。 アーティストのステージ衣装さながらのいで立ちを

◇   ◇ 春頃に比べて日が伸びたといっても、つきねが帰り着く頃にはすっかり暗くなっていた。 ドライヤーで乾かし終わると、つきねは髪をブラシで数回撫でる。 「ふぅ……これでいいかな?」 入浴後で、つきねは身も心もサッパリした気分だ。 やることも決まり、迷うのをやめた。 迷っていては大好きなものが消えてしまうかもしれないから。 数え切れないほどこの土地に生まれ暮らしてきた姉妹たちを、死に追いやった『

ココツキオリジナル小説

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