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制服に着替えて朝食を食べ終わると、ここねは再びつきねの部屋に向かう。
今度はつきねと一緒に。
部屋はつきねが買い込んだ雑貨が丁寧に並べられている。棚の中の陳列などはお店の一角かなと思ってしまうほどだ。
実用性よりも可愛らしさ重視の物も多く、つきねにぴったりだ。ちなみに趣味のゲーム機本体とゲームソフトはクローゼットの下のほうに仕舞われている。
「さぁさぁ、姫様。御髪(おぐし)を整えますので鏡台の前へ、どうぞ」
「……うん」
少しおどけて、ここねは妹を座らせる。
鏡には同じ中学校の制服を着たここねとつきねが映っていた。姉妹二人揃って着ることは今日が最後。
やはり寂しさはある。
いつものように、ここねは妹の髪に触れる。指で毛束を分けると、慣れた手つきで三つ編みに編んでいく。
それがここねとつきねの毎朝の習慣だった。
その日受けたくない授業のこととか、放課後は一緒に帰ろうだとか他愛のないやり取りをしながら。つきねの方からも色々と喋ってくれる。
しかし、今日はそれがない。鏡の中のつきねは少し俯きがちで、その顔は曇っていた。
どうしたの?とはここねは聞かない。
「せっかくだし、今日はカッコよく決めちゃおうか?」
「やるなら……おねーちゃんだよ。卒業式なんだから」
顔を上げたつきねの頬を一筋の涙がつたう。
「あ、あれ……? おかしいね、別に離れ離れになるってわけでもないのにね」
つきねが指で涙を拭いながら、無理に笑顔を作る。
離れ離れにはならない。だが、姉妹で一緒に過ごす時間は減ってしまう。変化は絶対に存在する。四月からはもしかしたらこうやって髪を編んであげられないかもしれない。
目頭が熱くなるのをここねはグッと堪えた。妹の前で泣くわけにはいかない。格好よくありたいから。
ここねはつきねの頭をそっと撫でた。……二人の心が落ち着くまで。
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